陸に上がったヨットマンほど情けないモノはない、グジグジと酒の勢いで自慢話、時化にあっては「もう2度とヨットに乗るもんか!」とわめき散らし暫くするとまたのこのこと海に出かける
乗るたびに船酔いし何が楽しくてこんな狭い空間にいるのだろうとぼやく、しかし今度は本当にすべてさようならをする、何故なら長い間乗っていたヨットが人手に渡ることになったからだ
真っ青な海、エンジン音も聞こえない僅かな風を受けただけでちっぽけな舟はシャバシャバと水を切りながら進んでいる、ラダーを握る手だけがスピードを感じることが出来る
この感覚は私にとって驚愕であった、汗を流しながら長い坂道を上った後「わぁ〜っ」と大声を出しながら坂道を漕がずに下る感覚に似ている
そうなんだ風って偉大なんだ、船の底に板を付けただけで小さな布きれ一枚に風を受け風上に切り上がっていくなんて信じられますか?
ずっと昔に兵庫県の八家までお誘いを受け釣りに出かけた、乗せてもらったのが生まれて初めてヨットでH氏手作であった、ヨットと言ってもエンジンやキャビンはなく帆付きボートのディンギーだ、しかも風が凪るとオールを取りだし漕がなければどちらにも進まない、H氏は高校時代にも手作りヨットで瀬戸内海にこぎ出し定期航路の関西汽船を止めて新聞の記事になったぐらい舟好きの人である
舟は陸置きなので行くと大きなクレーンで海に降ろして貰う、マストに滑車などと言う便利なモノは付いていないからまず倒してから帆を差し込む、もう一度立ててからハリヤードを張るのである
最初の釣は五目釣りだったが大漁でそれから釣り好きの私は度々載せてもらうことになった、そうこうする内にH氏から電話があり「出物のヨットがあるので一緒に買って乗らないか?」と言う内容ですぐさま西宮まで身に出かけることになった つづく